ART FOR REST TALK vol.01

ART FOR REST TALK vol.01
休息のためのアート。森のなかで深呼吸をするように、自分を癒し、寛がせてくれるアートを暮らしのなかでゆっくりと育めたら──。
「ART FOR REST」を企画する小林裕幸が、皆川明さんと、暮らしとアートの新しい関係についてお話します。



──休息や寛ぎのためのもの


 
小林裕幸(以下、小林):アート作品とアーティストをご紹介するウェブサイト「ART FOR REST」をスタートさせるにあたり、皆川さんとは様々なお話をさせていただきました。
そもそも、私たちに直接働きかけるアートとは何か、とか。

皆川明(以下、皆川):アートそのものは作品の芸術性、作家性、希少性、物質性、とかアートの存在自体に価値を付けていますけれど、暮らしのなかでアートの価値を感じるときは、その人にとっての喜びだったり、癒しだったり、くつろぎになったりする、という精神的な満足こそがその人にもたらすアートの効能だと思うんです。

アートそのものの価値にフォーカスしてきた時代が長かったけれど、逆の視点、アートを持つ人、また鑑賞者にとっての価値はなにか?という新しい空気感をつくることができれば、というお話をしましたね。

小林:くつろげる環境を作ることって大事で、室内に植物を置いたりしますけど、そこにもうひとつアートがある生活が出てくるといいな、って。部屋に植物を置くのと同じように、自分の気持ちを豊かにするという感じでアートが増えていく、季節に応じて替わっていく。ART FOR RESTがART FORESTになっていく。

皆川:そういう意味も含めて「ART FOR REST」という休息や寛ぎのためのアートってなんだろうか?つまり、日々の暮らしにとってアートってどういうことなのか?それが人や環境に何をもたらすのか?というテーマを設定して、アーティストとアートを求める人とを橋渡しする方法が良いなと思います。

小林:そういった考えが、ウェブサイトという形に結実した感じですね。

皆川:このウェブサイトでは、暮らしのスペースや用途に合わせながら、求める人がよりアートを親密に感じながら選べるように提案しているので、ただ所有したり家に持ち込むのではなくて、暮らしの時間との接点が分かりやすい感じがしますね。

小林:アートを選ぶということがどういうことなのか、なかなか感じきれていない。それはアートを売っていたり、描いていたりする人も同じで。
そういう課題の仲介役として存在できればと思っています。


──アートの価値



小林:皆川さんはアート作品とか工芸作品を多くお持ちだと思うのですが、どのようにして選ばれていますか?



皆川:工芸とアートは近くて、自分の暮らしのどういう場面で、どんな場所で、時間を共にするのだろうって。お皿だったら、こんな料理が合いそうだな、というのと同じように、あの場所にあると心地良いな、って想像できるものを選びます。
そこにはアートの著名性とか逆に無名性って関係なくて。特に若い作家の場合は、その未来も楽しむ。その作家が時を経てどう変わっていくのか、熟成していくのか、という関心を持つためにはじまりのピースを求め、自身の生活に溶け込ませながらその変化を見る喜びもありますね。

小林:すごく理解できます。

皆川:重ねて言いたいのは、値段が上がるからとか価値が上がるからではなくて作家の創作の変化や気持ちの変化を見る楽しみ、それは植物や自然が育っていく様子を見る感覚に近いかもしれないですね。そういう感覚でアートを楽しんでいる感じがしますね。

小林:アート作品は作っている人の個性、オリジナリティもあるけれど、買う人の個性がすごく出るじゃないですか。それも面白くて。皆川さんともよく一緒に旅や買い物をしますけれど、皆川さんの個性が出るアート作品とか工芸作品の選び方だな、って思うんです。

皆川:部屋にアートがあると、その人の嗜好性がビジュアル化されていて、こういうアートが好きなんだな、この人はこういうことを考えていて、それはこういう絵と呼応しているんだな、っていうのが伝わってきたりしますよね。
香りのように、アートを作った作家の思いとか精神性のようなものが同時にそこに漂うっていう。そここそが自分が考えるアートの価値の部分だなって。ものからちょっと離れたところに本来は楽しみがあるんじゃないかなって。



小林:自分と同じ作品が好き、違う作品を選んでいる、とか。友達や知り合い、親子でもいいし、それぞれ選んでみて語り合うっていうことも面白いなって思います。
アートを選んだことから会話が生まれてくる。

皆川:そうですね。


──感動に代えられる機会



小林:印象的なアート作品との出会いはありますか?

皆川:ミナ ペルホネンの展覧会や本でもご紹介したことがある、10代の時に北欧を旅した際に手に入れたコート。服としての機能を持っていますけれど、アートピースのようなもの。
若い頃のバックパック的な旅で、旅程を1ヶ月も残しているのにその旅費の大半を費やして、あとは食事にも窮するような旅をしたんですけれど、今となっては自分の人生でとてもいい出会いだったのだなと思えます。
そういう感動に代えられる機会やチャンスってとても得難いもので、それは通り過ぎてしまえば無かったことになってしまうから。自分の人生にどんな影響があるか、それをすごく期待する訳ではないけれど、すごく感動して、どうしてもこれを自分は持っていたいんだ、っていう感動に最初に出会ったのはそのコートかもしれないですね。

小林:人生に関わる様な出会いですね。

小林:今朝、昔ながらのジャムパンを食べたんです。若い頃、お金はなかったけれど、たくさんの文化に触れたいと思って、食事は安いジャムパン一個ですませて、節約したお金で映画や舞台を観てまわっていた時期があって。ジャムパンを食べた時に、一瞬でその時の記憶が蘇ってきたんです。クリエイションに触れていた時間というのは、何年経っても蘇ってくる。そういう経験ってとても大事で、それに触れている時間というのは何事にも代えられないものだと思うんです。
何十年経ってもその人の記憶の中にある、情報も含めてすべてがあっという間に過ぎ去ってしまうという、こんな時代だからこそ大事なのかなって。
何か残っていくものがある、っていうのは大事なんじゃないかと思いますね。


──アートを共有する感覚



小林:アートを持つことについて、どうお考えですか?

皆川:アーティストの気持ちや、その人がずっと重ねてきた技術、またはその人が積み重ねてきた創造への思考をひとつの形にしてくれるのはとっても有難いことで、それを自分の人生で共有できる、ってすごいことだと思うんです。
それはデザインや機能とは違ってその作家が感じてきたこと、鍛錬してきた時間や未来を見つめている目も含めて、その人生を作品という姿にしてくれていて、まずはその事に感謝を感じます。そしてそれを共有するというか、自分の人生で預かって、また次の世代に渡すのだと思うんですけれど。そういう時間、その作品が経ていく時間の一部を自分が借りることができるのはすごく有難いことですよね。

小林:本当にそう思いますね。
作品を通して、アーティストが持っている時間を自分に委ねられた感覚がすごくありますね。他者の人生を作品やその作家と会うことで得ている感じも。
さっき「共有」と仰られましたけれど、そういう気持ちがとてもあります。

皆川:自分の一生には限りがあるから、所有したところでその後、どこにも出なくなってしまうよりは、自分の持ち時間が終わったら次の人に。そのものがなるべくこの世界で存続できる様に考えていく、アートへの敬意としてそう思いたいと考えています。

小林:自分も、アーティストの思いが、30年後、50年後も作品として生き続けて欲しいな、って気持ちがすごく強いかもしれないですね。
ART FOR RESTは、そういった作品を次代に伝えていくための代理人なのかもしれないですね。

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